幼児のいるご家庭以外ではまず見られることのない、NHK教育の子供番組。うちでは毎日特定時間帯には漫然とつけているのだが、30年（40年？）構成もつまらなさの程度もほぼ変わらない「おかあさんといっしょ」や、スタート当初ほどひどくはないがやはりセサミの下手な真似事の「英語であそぼ」にはさまれて、スゴイものが出現していた（今春から）のを、不覚にも知らなかった。それは

狂言師　野村萬斎の出る 「にほんごであそぼ（朝8:00〜8:10）」である。

時間帯が、ちょうど中学生の息子が家を出る時なので、最近までは送り出し完了したところで幼児番組に切り替えていたため見逃していた。ある朝、いつものように食卓を片付けていたら、着ぐるみワンワンや体操のお兄さんの合間に突如として耳に飛び込んできたのだ、

「君 死にたもうことなかれ　　よさの・あきこ」（←こう聞こえた）

えっ？と思わず振り向いた私の目に映ったのは

白鳥は　哀しからずや　空の青
海のあをにも　染まずただよふ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　若山牧水

という文字。あっけにとられたがすぐ次の番組の、いかにも幼児幼児した（しかも安CGの）イントロに移ってしまった。
はてこの時間帯に教養番組？「ひとりでできるもん」「英語であそぼ」「いないいないばあ」の只中に「日本文学講座」が配されているとは思えないけど？　と、普通ならここで番組表くらい見るのだろうが私はそれすらしなかった。
　しかし次の日の同じ時間、コニちゃんと名づけられた小錦（！）が、小山の如き体を赤と黄色のトゲトゲ着ぐるみ（おとぎ話の鬼のイメージ？）に愛嬌のある顔で、小さい子供と一緒に
「テンは、ひとのウエに、人ぉツクらず」（←こう聞こえた）

などと、シコ踏みながら繰り返しているではないか。目を丸くしていると、いきなり野村萬斎である。ちゃんと狂言の衣装で、節や動作も正しく「太郎冠者殿　留守でござある」と朗々と声を響かせているのだが、そのバックがなんともシュールなのである。一体これは何？と、どきどきして見守っていると、高校生のクラブ活動が映り、二人のフツーの女子高生がブラスバンドの楽器を手にしたまま、かわりばんこの棒読みながら

ぎおんしょうじゃのかねのこえ
しょぎょうむじょうのひびきあり

と暗誦しだすではないか（これはひらがな縦書き字幕が画面に出る）。
場面変わって祭りの太鼓、周りを歌い踊るはっぴの子供たち、しかしセリフは威勢良く

驚き桃の木 山椒の木
あたりきしゃりきよ 車曳き

何が南京　唐茄子かぼちゃ
恐れ入谷の　鬼子母神
蟻が鯛（ありがたい）なら　芋虫ゃ鯨…

と、江戸っ子へらず口連発の、「がってん音頭」なのである。
そして最後のしめくくり、「今日の名文」として、正しい字体レイアウト縦書きで

雨ニモ負ケズ　風ニモ負ケズ
　　　　　　　　　　　　　　　　宮沢賢治

などと、画面に出るのである。
参った。
ファンになりそう…と思ったら、すでにファンサイトもできていた。
[参照URL]
番組内容は、いくつかのコンテンツを組み合わせつつ、周期的に新しいものが入ってきて古いものは消えて行くので、これからご覧になる方が果たしてどの「日本語」、どの野村萬斎パフォーマンス（古典かアバンギャルドか）にめぐり合うか判らないが、ともかく一見をおすすめします。さあ、明日の録画セットしなくちゃ。
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幼児達にもしっかりウケているところがすごい。しかし幼稚園もまだのわが子が、積み木なぞで遊びながら何心無く

汚れっちまった　悲しみに…

と口ずさんでいるのは、何とも言えない趣きがある…のであった…。