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Off the Ring(「指輪」を離れて、の意だが、仕事オフ、の含みもある)掲示板で楽しく活発にやっていたところへ、またしても弩級誤訳…書きたいことは多々あるが、甘い洋菓子にコーヒー、とは違うから、せっかく楽しくやってるところへ持ちこまず、苦い話はこっちで書くことにした。 LotR(今回のDVD)の外まで広げた、誤訳例の話。
今回のイライジャのインタビュー中の誤訳(ツリー#292末尾)は確かにひどいが、それを含めてなお、感情的にならずに言うなら、私は特典映像ディスクの字幕全体は「まあ普通こんなもんだ」クラスに分類する。ビデオでもTVでも、字幕つきで1時間も見ていれば、「観客はフロドの気がふれたと思うだろう」クラスに一度はぶち当たる。「メインは彼らよ」のような、主旨は外れてなくたって話者の品位や知的レベルが全っ然(←誤用)違ってるだろうが!と叫びたくなる「喋り方」は、3〜5人に1人くらいの割では確実に受難している。
永遠の名作『ゴッドファーザー』レンタルVHSの字幕はFotR級である。一例だけ挙げる。冒頭あたりで登場する気の毒な葬儀屋、娘が人並みにボーイフレンドを持つ年頃になった、と言う箇所「男ができました」。30年前の高校生がデートしてるだけなんですけど! この字幕でふしだらな娘なのかと思わされたら、今度はshe kept her honor すなわち暴行されかけて命がけの抵抗、処女は守ったが顔に治らない傷を負わされる、そこでは「操を守るため」である。呆れてものが言えない。「男ができた」後に「操を守る(戦前かこの用語)」って、どうして平気でこうも食い違った日本語が書けるのか。
スタートレックでは、「転送」がおなじみである。"Beam me up, Scotty" はアルマゲドンはじめ、幾多の場所で幾多の人が冗談に使っている。これ(beam +人+ up/down)が、新スタートレックと銘打ったTNG紹介番組では、「光線銃で撃ち合う」となっていた。しかも、(記憶で書くが)「自由に転送で行き来できる、楽しく素晴らしい未来、行ってみたいですね」という文脈だったからたまらない。beaming people up and down は、確かに知らなければ訳せないのはわかる。しかしファンにしたら、超弩級の誤訳である。
とまあ、毎度このような字幕誤訳に気づかずに済ませられない身としては、もうとっくの昔に「普通こんなもんだ」の境地、そうでなければ日本で洋画は見られない。それほど点の甘い私にして激怒したのがFotRの戸田字幕であった、ということなのだ。
字幕を消せるDVDは私にとっては天の恵みではあるが、目をそむけずに済む字幕を、という望みは悲しいほどささやかな、いや卑屈なほど低い希望のはずである。文芸翻訳には編集者が、産業翻訳にはクライアントがいて、当たり前のチェック機能があるから、ひどい訳が堂々とまかり通ったり、ひどい訳をする人間が大威張りで業界に居座ったりはできない。映像翻訳でも、吹替えであれば、演出家や声優など大勢の目を通るから、「これはちょっとおかしくないか?」がどこかで出る可能性が高い。翻訳の世界の中で、ひとり「字幕」だけが、独断そのまま、品質ノーチェックで出荷され商品となる。そして消費者は選びもできずに買わされるのである。
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